「画像処理に関連する知識を網羅的に身に付けたい」という方や、「何をどのような順序で学習すればよいかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
そんな方におすすめの資格が、画像処理エンジニア検定。
本資格は画像処理の基礎知識を網羅的に出題するため、初学者が学習の中間目標に設定するのに非常におすすめの資格試験です。
さらに、統計・データサイエンス系の資格のなかでは画像処理スキルを問う資格はE資格以外ほとんどなく、唯一の特化型資格なので、スキルのアピールにもつながるでしょう。
本記事では資格取得を検討している方に向け、現役のデータサイエンティストの視点から画像処理エンジニア検定について、出題内容、おすすめ勉強方法、参考書までを網羅的に解説します。
監修者
經田 原弘
東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻修了。大学時代は3次元の医療データの平滑化処理を研究テーマとし、大学院時代はJAXAと協業し、月探査機かぐやの衛星データから、月面上の水の存否について調査していた。新卒では株式会社リクルートにてレコメンドシステムの開発等に従事し、現在は製造業系スタートアップにてデータサイエンティストとして勤務。応用情報技術者試験・E資格合格者。
画像処理エンジニア検定とは?
画像処理エンジニア検定とは、画像処理技術を用いてソフトウェアやシステムを開発、設計するときに必要なスキルを評価する試験です。
文部科学省後援のCG-ARTS(画像情報教育振興協会)が主催しており、権威性・信頼性があるので、近年受験者数が増えてきています。
本資格は、初級者向けの「ベーシック」と中級者向けの「エキスパート」の2段階で構成されています。下記表は各資格の取得でどのようなことができるようになるのかをまとめました。
レベル | できるようになること |
---|---|
ベーシック | 変換(リサイズ、回転、鏡像)、画像フィルタリング、エッジ検出など基本的な画像処理操作ができる |
エキスパート | ディープラーニング、ニューラルネットワークを活用した画像認識やセグメンテーション、3D画像処理など高度な画像処理ができる |
ベーシックは画像処理の基礎知識を網羅的に学習することができるので、「機械学習やデータサイエンスを学ぶ一環として、画像処理も別立てで学んでおきたい」といった初学者におすすめです。
対して、エキスパートは顔認証で活用されているセグメンテーションや、自動運転で活用されている3D処理知識を得られます。エキスパートの名のつく通り、画像処理の専門的を目指す方など知識をより高いレベルで持っておきたい方におすすめです。
取得メリット
次は画像処理エンジニア検定の取得で得られるメリットを解説します。本資格の取得メリットは大きく ①画像処理の基礎知識をマスターできる ②画像処理学習のマイルストーンとして活用できる の2つです。
メリット①:画像処理の基礎知識をマスターできる
画像処理エンジニア検定は、画像処理分野で実務で活用されているスキルを習得できるように設計されています。
問題を例に見ていきましょう。たとえば特徴量検出とマッチングを問う下記の問題は、顔認証システムで顔の特徴点(目、鼻、口など)を検出するときに実際に活用している技術をベースに出題されています。
上記は一例ですが、本試験の学習を通じて、画像処理エンジニアに求められる基礎知識を網羅的にマスターできます。
メリット②:画像処理学習のマイルストーンとして活用できる
2つ目のメリットは画像処理学習のマイルストーンとして活用できることです。
画像処理学習といっても内容は膨大です。初学者は「どこから学習していけばよいかわからない…」といった方も多いでしょう。
本資格は画像処理を体系立てて学習することができるので、画像処理に必要な知識を最短ルートで身に付けることができます。
また、マイルストーンがあることで、自分の学習進捗や次に学習すべき内容がわかるので、モチベーションを保って学習を継続できるでしょう。
難易度
ここからは各レベルの出題範囲、合格率・合格に必要な勉強時間から、どの程度の難易度かみていきましょう。
出題範囲
CG-ARTSが公式発表している出題範囲をもとに、編集部が独自にわかりやすくまとめてみました。
ベーシックの出題範囲
ベーシックの出題範囲は以下の通りです。画像処理の基礎知識を網羅的に出題しており、画像処理初学者やPython初学者でも学習をはじめやすい内容といえます。
項目 | 内容 |
---|---|
画像処理に関する基礎知識 | ・解像度 ・色空間 ・ピクセル画像の基本構造 |
画像処理ライブラリの操作 | ・表示 ・画像の読み込みと保存 ・基本的な操作(クロップ、リサイズ、回転など) |
画像フィルタリングとエッジ検出 | ・畳み込み操作 ・平滑化フィルタ ・エッジ検出アルゴリズム(Sobel、Cannyなど) |
ノイズの削除と基本的な画像変換 | ・色調補正 ・輝度値の調整 ・ノイズの種類とノイズ削除手法 |
基本的な形態学的操作 | ・膨張と収縮 ・開操作と閉操作 ・オブジェクトの連結成分の抽出 |
色空間変換とヒストグラム処理 | ・色空間の変換と応用 ・ヒストグラム平坦化とコントラストの強調 |
基本的な画像分析と特徴量抽出 | ・オブジェクトの領域と輪郭の抽出 ・特徴点の検出と記述子(Harrisコーナー、FASTなど) |
基本的な画像セグメンテーション | ・閾値処理によるセグメンテーション ・クラスタリングによるセグメンテーション |
基本的な画像変換と幾何学的操作 | ・回転とリサイズ ・鏡像反転などの画像変換 ・透視変換による歪み補正 |
たとえば、色空間変換とヒストグラム処理は顔認識アプリケーションで、肌色の領域を抽出するために活用されています。ほかにも、特徴量抽出は車の自動運転で、周囲の車や歩行者を検出するために活用されています。
出題範囲は基礎内容がメインですが、さまざまな領域で活用されている重要知識を身に付けることができます。
エキスパートの出題範囲
エキスパートの出題範囲は以下の通りです。機械学習やディープラーニングの知識も必要になるので、画像処理だけでなく、Pythonの知識も重要になります。
項目 | 内容 |
---|---|
フィルタリングと畳み込み | ・畳み込み操作 ・周波数領域処理 ・畳み込みカーネル |
特徴抽出と特徴記述子 | ・特徴点の検出と抽出 ・特徴記述子(SIFT、SURF、ORBなど) |
セグメンテーションとクラスタリング | ・クラスタリング(K-means、DBSCANなど) ・セグメンテーション手法(分水嶺、Watershedなど) |
モーション分析とオプティカルフロー | ・物体追跡 ・モーションモデル ・オプティカルフロー |
イメージレジストレーションとパノラマ合成 | ・画像の位置合わせ ・パノラマ画像の生成 |
画像復元とノイズ除去 | ・逆フィルタリング ・ノイズモデルとノイズ除去手法 |
機械学習とディープラーニングの応用 | ・分類 ・回帰 ・異常検知 ・物体検出などの応用 |
画像認識と分類 | ・識別モデル ・パターン認識 ・教師あり・教師なし学習 |
イメージハッシュと著作権保護 | ・著作権保護技術 ・画像の指紋化と比較 |
深層学習と畳み込みニューラルネットワーク | ・転移学習 ・畳み込み層 ・プーリング層 ・CNNのアーキテクチャ |
センサーフュージョンと画像との統合 | ・LiDARデータの処理 ・環境認識のためのセンサーデータの統合 |
3D画像処理と立体視 | ・深度推定 ・3Dモデルの生成 ・ステレオマッチング |
たとえば、フィルタリングと畳み込みは、医療画像処理でX線画像やMRI画像などのノイズを除去するときに活用されています。モーション分析とオプティカルフローは、セキュリティ監視カメラで物体の動きや行動を追跡するために活用されています。
ほかにも、自動運転、環境モニタリング、GISなど、さまざまな分野で活用できる知識を身に付けることができるので、画像処理エンジニアに必要な知識を身に付けたい方におすすめです。
合格点・合格率
合格に必要な点数は、ベーシック、エキスパートともに70点以上(100点満点)です。また、各レベルの合格率の推移は以下の通りです。
ベーシックの合格率が約67%程度と、比較的合格しやすいといえるでしょう。エキスパートの合格率が30%と低いので、試験対策は必須といえます。
画像処理エンジニア検定合格率の推移
試験 | 合格率(ベーシック) | 合格率(エキスパート) |
---|---|---|
2023年度 前期 | 69.4% | 42.7% |
2022年度 後期 | 66.4% | 32.3% |
2022年度 前期 | 62.3% | 38.6% |
2021年度 後期 | 68.3% | 22.2% |
2021年度 前期 | 66.5% | 32.6% |
合格に必要な勉強時間
編集部がGoogle検索で画像処理エンジニア検定の合格者体験談をピックアップし、受験対象者の前提知識、学習にかかった勉強時間、勉強方法を具体的にまとめてみました。
下記の通り、画像処理の基本知識を有していたとしても、出題傾向を掴んだり、試験問題に慣れるために、ベーシックでは平均20時間程度、エキスパートは40時間程度の勉強時間が必要と推測できます。
タイトル | 受験した レベル | 前提知識 | 勉強時間 | 勉強方法 |
---|---|---|---|---|
体験談!画像処理エンジニア検定ベーシックの難易度ってどれくらい?|勉強時間や勉強法についてもご紹介! | ベーシック | 画像処理の基本知識あり | 20時間 | ・公式テキストで知識を固める ・公式問題集で演習する ・間違えた内容をテキストで復習する |
画像処理エンジニア検定 ベーシックを受験してみた。※追記 | ベーシック | 画像処理の基本知識あり高校数学程度の知識あり | ー | ・公式テキストで知識を固める ・公式問題集で演習する ・試験直前に暗記問題を見直す (知的財産権など) |
実質1週間の勉強で画像処理エンジニアエキスパート受かったので勉強法を晒す | エキスパート | ー | 15~20時間 | ・公式テキストで知識を固める ・公式問題集で演習する ・間違えた内容をテキストで復習する |
画像処理エンジニア検定エキスパートの効率的な勉強法はコレ!失恋メンタルでも合格! | エキスパート | 画像処理の基本知識あり | 60時間 | ・公式テキストで知識を固める ・公式問題集を解く |
おすすめ勉強方法・参考書
ここからは上記合格者の実際の勉強プロセスを参考に、編集部では下記のような勉強方法を提案していきます。
- 公式対策テキストで知識を固める
- 公式問題集を解き、出題傾向を掴む&弱点をテキストで復習
ステップ①:公式対策テキストで知識を固める
まずは受験するレベルの公式対策テキストで試験範囲の知識を固めましょう。
画像処理エンジニア検定の対策本は下記の公式対策テキスト以外になく、出題範囲を網羅的に学習できる唯一の参考書です。公式対策テキストは下記リンクから購入できます。
- ベーシックレベルの対策テキスト
本書は画像処理の基礎知識を網羅的に学習できるので、画像処理学習の1冊目として最適でしょう。本書内容からの出題も数多くあるので、ベーシック受験者は本書のマスターが必須です。
数式などを用いた理論の解説が中心となっており、画像処理を本質から理解できるので、知識の土台作りとなるでしょう。
また、イラストや図が多く含まれており、空間フィルタリングなどイメージしにくい内容も直感的に理解できるので、初学者におすすめです。
- エキスパートレベルの対策テキスト
画像処理の基礎理論から手法、アルゴリズム、応用事例までを学習でき、画像処理エンジニアとして必要最低限の知識を身に付けることができます。
ベーシック対策本と同様に、本書も数式などを用いた理論の解説が中心となっており、画像処理を本質から理解できます。
また、本書もイラストや図が豊富にあるので、ヒストグラム平坦化などイメージしにくい内容を直感的にイメージしやすくなっています。
ただ、画像処理初学者がいきなり本書から学習すると、専門的な内容も多くつまずきやすいので、上記のベーシック対策本で基礎固めしてから本書に臨みましょう。
ステップ②:公式問題集で出題傾向を掴む&弱点をテキストで復習
テキストで学習した直後は、「テキストの内容は理解できるが、自力で説明はできない」というわかっているつもりになっていることが多々あります。
そこで、実際に問題集を解いて、何が理解できていて、何が理解できていないのかを確かめましょう。
下記問題集は画像処理エンジニア検定唯一の公式問題集で、実際に類似問題が多く出題されています。
ベーシック3回分、エキスパート5回分を掲載しているので、どちらのレベルを受験する場合でも本書で問題演習を積むことができます。公式問題集は下記リンクから購入できます。
本書で出題傾向を把握して、試験問題に慣れましょう。そして、間違えた問題はテキストで再度復習して、知識を確実に定着させましょう。
また、CG-ARTS公式HPでは過去2回分の試験問題と解答を公開しています。公式問題集をマスターして、さらに問題演習を積みたい方は過去問で最後の力試しを行いましょう。過去問を掲載しているCG-ARTS公式HPは以下リンクからどうぞ。
まとめ
画像処理エンジニア検定の概要から、おすすめ勉強方法、参考書までを解説してきました。画像処理エンジニアの概要理解や勉強方法のイメージは深まったでしょうか。
画像処理の基礎知識を網羅的に身に付けることができたり、学習のマイルストーンとして活用できるので、初学者に非常におすすめです。この記事が皆様の学習の一助となれば幸いです。
編集部では画像処理で活用できるライブラリ「matplotlib」の記事も公開しています。Pythonで画像処理したい方はぜひこちらの記事もご覧ください。