統計検定の中でも準1級の数理・統計知識はデータサイエンティストとしての「独り立ち」レベルともいわれており、受験を検討している方も多くいらっしゃるでしょう。
しかしながら、統計検定準1級は下位資格の2級までとは一線を画す難易度となっており、学習範囲が広く・個別の分野についても深い理解が問われるため、どのような参考書で勉強すればよいかわからない方も多いのではないでしょうか?
本記事では現役データサイエンティストかつ、資格検定講師の視点から統計検定準一級の難易度・勉強方法を丁寧に解説していきます。
監修者
經田 原弘
東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻修了。大学時代は3次元の医療データの平滑化処理を研究テーマとし、大学院時代はJAXAと協業し、月探査機かぐやの衛星データから、月面上の水の存否について調査していた。新卒では株式会社リクルートにてレコメンドシステムの開発等に従事し、現在は製造業系スタートアップにてデータサイエンティストとして勤務。応用情報技術者試験・E資格合格者。
統計検定準1級の試験概要
統計検定とは?
統計検定の種別
「統計検定」とは、統計に関する知識や活用力を評価する全国統一試験です。
統計検定の各試験の分類を行うと、大きく ①数理・統計知識が身につくもの ②統計調査の知識が身につくもの ③データサイエンティストとしての分析・実装能力が問われるもの の3つに分類できます。
身に付く知識 | 統計検定の分類 |
---|---|
数理・統計の知識が身につく | 統計検定4級~1級 |
統計調査の知識が身につく | 統計調査士、専門統計調査士 |
データサイエンスの知識が身につく | データサイエンス基礎・発展・エキスパート |
統計検定各級のレベル
下記の表は公式ホームページ記載の情報をもとに、各級で学べること・レベル感を編集部独自でまとめた表です。
統計検定準1級は2級の試験範囲をベースに、試験範囲が追加されてさらに「広く」、各分野について詳細を問われるため「深く」なっています。ただ、この粒度の説明だと具体的なイメージはつきづらいと思いますので、詳細は後述します。
資格名 | 学べること |
---|---|
統計検定 4級 | データや表・グラフ、確率に関する基本的な知識と具体的な文脈の中での活用力 |
統計検定 3級 | データの分析において重要な概念を身に付け、身近な問題に活かす力 |
統計検定 2級 | 大学基礎科目レベル(1~2年次)の統計学の知識の習得度と活用のための理解度を問う |
統計検定 準1級 | 2級で求められる統計学基礎に加え、各種統計解析法の使い方および解析結果の正しい解釈 |
統計検定 1級 | 大学専門課程(3・4年次)で習得すべきで求められる統計数理・統計応用の知識 |
試験形式・問題
試験はCBT方式で、問題数は45問程度・制限時間は90分です。
詳細は後述しますが、大学で統計・データサイエンスを専攻している人や、データサイエンティストとして実務に携わる人でも制限時間ギリギリでの回答になるほど、制限時間の有効活用が大事になります。
難易度(出題範囲)
公式資料を見ていくと統計検定準1級は、2級をベースに出題範囲が組まれていますが、さらに広く・深く学習する必要があります。
大学において統計学の基礎的講義に引き続いて学ぶ応用的な統計学の諸手法の習得について検定します。具体的には下記の(1)、(2)を踏まえ、適切なデータ収集法を計画・立案し、問題に応じて適切な統計的手法を適用し、結果を正しく解釈する力を試験します。
(1)統計検定2級の内容をすべて含みます
統計検定公式ホームページより引用
(2)各種統計解析法の使い方および解析結果の正しい解釈
出題範囲は大分類だけで15項目あり、各分野について本を数冊買って深堀りができるほど奥の深い広く列挙されています。体感的には理系大学生かつ統計を入念に勉強したレベルの難易度になっています。
各分野に深い理解が問われるため、試験内容をハックすれば合格できるような類の試験ではなく、学習時間や学習教材にかかる費用などは一定かける必要があります。 準一級を受験する場合は、それくらいの心づもりで学習を進めましょう。
統計検定準1級の出題範囲
大項目 | 小項目 |
---|---|
確率と確率変数 | 事象と確率、確率分布と母関数、分布の特性値、変数変換、極限定理、漸近理論 |
種々の確率分布 | 離散型分布、連続型分布、標本分布 |
統計的推測(推定) | 統計量、各種推定法、点推定の性質、漸近的性質、区間推定 |
統計的推測 (検定) | 検定の基礎、検定法の導出、正規分布に関する検定、一般の分布に関する検定法、ノンパラメトリック法 |
マルコフ連鎖と 確率過程の基礎 | マルコフ連鎖、確率過程の基礎 |
回帰分析 | 重回帰分析、回帰診断法、質的回帰 |
分散分析と実験計画法 | ー |
標本調査法 | ー |
多変量解析 | 主成分分析、判別分析、クラスター分析、今日分散構造分析と因子分析、その他の多変量解析手法 |
時系列解析 | ー |
分割表 | 分割表の解析 |
欠損値 | 分割表のモデル |
モデル選択 | ー |
ベイズ法 | ー |
シミュレーション、計算多用手法 | ー |
出題範囲表の詳細を確認したい方は統計検定の公式ホームページから入手できますので確認ください。
統計検定準一級の勉強時間
大前提として勉強時間の確保は必須です。編集部独自でリサーチした結果ですと、統計をしっかり勉強してきた人や実務経験のある人たちでも、300時間以上の学習時間をかけています。
下記の記事では合格者体験談(記事)のソースを明記した上で、統計検定準一級の難易度・勉強方法を詳細に解説した記事も提供しています。参考の一助になればと思います。
統計検定準1級の参考書の選び方
統計検定準一級は試験範囲が広いため1冊の本ですべてをカバーすることはできません。不要な本を買わないためにも、まずは「選び方」を確認しておきましょう。
統計検定準一級の参考書を選ぶ際に必ずチェックしておきたい、「たった3つのポイント」をご紹介します。それはいたってシンプルに「①過去問最低3週以上を解くこと」「②頻出問題を深堀りし、勉強時間を300時間確保すること」です。
統計検定準一級参考書の選び方
- 大前提として勉強時間を確保。目安としては300時間程度
- 全体像を理解できる公式本は必須
- 過去問で「時間制限」と「出題傾向」に慣れる
- 個人の学習進度に合わせ、「特化型」の専門書で学習
ポイント①:大前提としての数学知識を押さえる
前述の通り、統計検定準1級は出題範囲が「広く」「深い」ため、2級までとの難易度とは一線を画します。数学と統計学がどう関係するかをきちんと理解しないことには対策のスタートラインに立てません。
数学知識に不安が残る方は、復習も兼ねて「微分・積分」「行列」「ベクトル」等の学習を進めておくことが重要です。
編集部ではデータサイエンス・統計学に必要な数学知識を補填できる参考書を紹介している記事も用意しています。ぜひそちらも参考にしてください。
ポイント②:全体像を理解できる公式本は必須
統計検定準一級合格者の勉強方法の類似点をまとめると、公式対策本である「統計学実践ワークブック」を中心に、専門書を数冊購入して知識を補填する」という特徴があります。 *具体的な専門書は下記で紹介します
また、公式ではないですが、統計検定の出題範囲と概要をまとめた「チートシート」と呼ばれる早見表が話題となっています。
統計検定は数多くの数式の暗記と活用が必要になります。チートシートを活用すれば、一回一回参考書の該当部分を調べて参照するよりも、手早く公式をチェックできるようになります。
ポイント③:過去問で「時間制限」と「出題傾向」に慣れる
合格者体験談のなかには。統計検定2級合格者でも「制限時間目いっぱい使う」「自己採点用に答えを書き写す時間もない」という声もあり、過去問を使い、模擬的に制限時間内で本当に合格点に到達できる点数まで上げきっておくことが重要です。
試験対策には過去問を使いましょう。目安としては、過去問を最低でも3周程度(6回×3周で合計18回分)はしておきたいです。上記の統計検定の過去問は2015~21年までの6年間分の量がありますので、この教科書を3回となると合計18回になり勉強時間は膨大になります。
実際に合格者にはこの過去問自体に100時間以上使っているという方もいらっしゃることから、その重要性がうかがえるでしょう。
ポイント④:個人の学習進度に合わせ、「特化型」の専門書で学習
統計検定準一級の受験を志すレベルまで勉強されている方であれば、言わずもがな勉強時間の確保は惜しみないと思います。しかし、ただし現実的には難しいため、大事なのは学習時間の「リソース配分」で、もう少し具体的にいうと「どの単元をどこまで深ぼるか」「どこまで式を覚えるか」です。
合格者の体験談を参考にすると、学びたい単元(目的)に応じて参考書を変えて学習しています。
出題範囲表を学習者が実際に勉強しやすいように単元をくくり直し、対策本として使える参考書をまとめたのが下記の表です。個人の理解度・学習進度に応じて参考書を選びましょう。
出題項目 | 目的 | 参考書タイトル |
---|---|---|
数学基礎 | 微分・積分、確率・統計、線形代数などの統計検定2級レベルの数学知識 | 統計学のための数学入門30講 |
時系列解析 | 指数平滑化、自己回帰モデル、交差相関やホワイトノイズにランダムウォークなど各モデルの学習 | 入門はじめての時系列分析 |
確率分布 | 確率分布やその導出、中心極限定理、検定、信頼区間など基礎的な理論や計算の練習 | スバラシク実力がつくと評判の演習統計学キャンパス・ゼミ |
多変量解析 | 重回帰、パス解析、因子分析、対数線形モデル、ロジスティック回帰、クラスタリング | Rによる多変量解析入門 データ分析の実践と理論 |
ベイズ統計 | ベイズ統計を学んでいくのに必要な基本計算(数学力)の習得 | 道具としてのベイズ統計(日本実業出版社) データ解析のための統計モデリング入門 |
実験計画法 | 分散分析や実験計画法の直行表 | よくわかる実験計画法の基本と仕組み |
統計検定準1級のおすすめ参考書
ここからは統計検定準一級対策のおすすめ参考書を、「必須」と「分野別」に分けて紹介していきます。
前述の通り、出題範囲が広く難易度が高いため、公式本・分野別すべての参考書の購入をして、惜しみなく勉強時間をかけたいところです。ただし現実的なラインもあるかと思いますので、見出しにつく「【必須】」は必須として、他はあくまで提案として受け取ってください。
【必須】統計学実践ワークブック
実際の受験者からも「受験会場でも多くの人がこの参考書を開いていた」というコメントもあり、まさに必須の教科書的一冊とみてよいでしょう。
しかしながら、統計検定準一級の出題範囲は「広くて、深い」という同じ問題が出るという確証はありません。全体像を確認したり、弱点の発見など、あくまで教科書的に使うことをおすすめします。
Amazonレビューにも多く載せられている通り、「理解の浅い箇所は他の教科書で補う」がセオリーですので、個別の分野への対策は各分野に特化した参考書で行っていきましょう。
【必須】統計検定 1級・準1級 公式問題集
こちらも「統計学実践ワークブック」と同様に、必須の一冊です。繰り返しますが、統計検定準一級は①制限時間に慣れる ②頻出問題に慣れるという理由から、過去問での対策がマストです。
前述の通り、出題の難易度が高い上に合格者は3周はしていることを鑑みると、保険をかけるのであれば本書を3周し万全な対策をしましょう。
以前までは「2016~2017年」「2017~2018年」と2年分で出版されていたものが、2021年11月出版の過去問では6年分まとめてになっています。
【時系列解析】入門はじめての時系列分析
統計検定準一級の出題範囲では、時系列解析の出題は少なく平易な問題が多いです。時系列分析の分野への対策は本書を一冊買えば、十分といえるでしょう。
本書の特徴は指数平滑化、自己回帰モデル、交差相関やホワイトノイズにランダムウォークなど、時系列分析の多様な分析手法を簡単かつ網羅的に解説している点です。
学問的な抽象表現と実際的な具体表現が合わさって記載されているので理解しやすいというレビューも存在しますし、各モデルの直観的な理解ができるため、入門者向けとしておすすめの本といえるでしょう。
【確率分布】統計学入門 (基礎統計学Ⅰ)
東京大学が出版している統計学基礎の定番ロングセラーであり、統計学の重要項目が網羅的にカバーされています。出版年の1991年から30年間改訂が続けられており、統計検定2級~準1級の範囲を網羅的に解説しています。
本書のおすすめポイントは、統計学入門 (基礎統計学Ⅰ) の特徴は、数式の説明が丁寧にされていることです。数ⅡB、数ⅢCレベルの数学の前提知識がある方はこちらから取り組むのもよいかもしれません。
統計検定準一級に必要な知識である確率分布やその導出、中心極限定理、検定、信頼区間など基礎的な理論や計算の練習を網羅的に学習することができます。
ただし、統計検定2級~準1級相当の難易度の統計学をまとめた書籍となりますが、モーメント母関数や中心極限定理の導出など、統計検定1級に出るような内容も一部取り扱われています。
実際に演習問題で手を動かして、理解を深めて学習したい場合は下記の本もおすすめです。
【ベイズ統計】道具としてのベイズ統計(日本実業出版社)
本書はベイズ統計を入門者向けに解説しており、実際の合格者体験談にもある通り、準一級の出題範囲に必要なベイズ統計をほぼ網羅的に扱っています。
著者は高校教師(数学)で、他にも多変量解析などの著書を出している涌井良幸さんです。サイエンスライターということもあり、ベイズ統計が注目されている背景・歴史から、実世界でのベイズの応用方法までわかりやすく説明しています。
数学の教科書にありがちな、「難解な数式が並んで論理が端折られている」「定義の記述が少なくをいつの間にか見落としている」ということもなく、平易な表現で必要な粒度で記述しているため、入門者としてはありがたい一冊です。
気になる方は、他の著書である「Excelでスッキリわかるベイズ統計学入門」も購入してみるのもよいでしょう。
【ベイズ統計】データ解析のための統計モデリング入門
前述の本はあくまでも入門者向けの本のため、より深い理解をしたい方には本書がおすすめです。レビューの高さもさながら、実際Amazonでは「統計検定準一級取得後」に応用的に学ぶ目的で購入された方もいます。
応用本としては意外にも定性的な理解を問いますし、RとWinBUGSの具体例を用いて説明しているため、理論と実践のバランスがとれた一冊といえるでしょう。
【多変量解析】多変量解析法入門
本書を統計検定準一級に活用する目的は、第1~5章までの「線形代数」「単回帰分析」「重回帰分析」などの多変量解析の適用例などを理解することにあります。行列・ベクトルに苦手意識がある方が一番最初に、定性的にシンプルに多変量解析を理解したい人におすすめです。
後半に進むにつれ、複雑な手法や数学的な解析方法を説明していくため難易度が上がっていきますがが、Rなどを利用した具体的な説明は少ないため、解析ソフトなどの実用・実践的な知識を学びたい方は次に紹介する「Rによる多変量解析入門 データ分析の実践と理論」がおすすめです。
【多変量解析】Rによる多変量解析入門 データ分析の実践と理論
本書の特徴は、重回帰、パス解析、因子分析、対数線形モデル、ロジスティック回帰、クラスタリングなど、分析結果をどのように解釈するかをプログラミング言語であるRを利用して解説している点です。
演習問題で手を動かして理解を定着させることができるため、理論ではなく、実践的に学びたい人や実務に応用したい人に向けにおすすめです。
【実験計画法】よくわかる実験計画法の基本と仕組み
試験範囲に対応する実験計画法をゼロからの知識で学習できることが、本書を活用するメリットです。合格者の体験談では本書を読了した後であれば、過去問の実験計画法の問題も解けるようになるというコメントもあります。
Excelの関数でどのように実験計画法を扱えばよいかの具体的な説明もされているため、読んですぐに実務に応用できるという点も評価のポイントです。