AI・機械学習の初学者のなかには、「実装スキルを上げたいが右も左もわからない」「具体的な目標を決めて勉強したい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そんな方におすすめなのが「E資格」です。E資格はJDLAが運営するG検定の上位資格とも呼ばれる少し難易度の高い資格です。
しかしながら取得メリットについてイマイチ理解しきれていない・腹落ちしきれていない方もいらっしゃるのではないでしょうか?
本記事はE資格取得者である筆者の経験を交えながら、定量・定性の両観点からE資格の取得メリットを検証していきます。最後にはおすすめの勉強方法もご紹介していますので、是非最後までご覧ください。
監修者
經田 原弘
東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻修了。大学時代は3次元の医療データの平滑化処理を研究テーマとし、大学院時代はJAXAと協業し、月探査機かぐやの衛星データから、月面上の水の存否について調査していた。新卒では株式会社リクルートにてレコメンドシステムの開発等に従事し、現在は製造業系スタートアップにてデータサイエンティストとして勤務。応用情報技術者試験・E資格合格者。
E資格取得は「意味ない」のかを徹底検証!
時間も労力もお金もかかる資格学習において、どれほど役に立つのかは気になるところ。
そこで編集部独自の観点で、E資格が意味ない・役に立たないと言われる理由を下記の3つと置きました。資格運営側や第三者が出している定量データ、E資格の合格者体験談をもとに、3つの観点をそれぞれ検証していきます。
E資格が意味ないと言われる理由
理由 | 検証方法 |
---|---|
資格知名度が低い | 他の資格と比較して受験者数がどれくらいか |
難易度が低い | 他の資格と比較して合格率がどれくらいか |
転職に有利にならない | 他の資格と比較して求人数がどれくらいか |
理由①:人気度(資格知名度)が低い
まずは資格の人気度を類似資格である「G検定」「DS検定」「統計検定(2級、3級)」の5つと比較して、資格の知名度を確認していきましょう。受験者をデータサイエンス初級~中級の方と想定して、同レベル・類似する資格をリストアップしています。
E資格と類似する資格の受験者数
資格名 | 受験者数 |
---|---|
G検定 | 6,760名 |
DS検定 | 1,400名 |
E資格 | 1,170名 |
統計検定3級 | 320名 |
統計検定2級 | 731名 |
E資格を受験するにはJDLAが認定した講座を受講する必要があり、認定講座を受講せずに資格を受験したいというライトな層が母集団に入っていない状態の受験者数です。
また、実数としても試験範囲の被りがある「DS検定」「統計検定2級」と比較すると、1000名を越しており、申し分のない数であるといえます。
まとめると、実質的な人気度(受験したいと思っている層)は潜在的には高く、受験者の実数も多いため、知名度としては気にするほど低いものではないといえるでしょう。
理由②:難易度が低い
次は、各試験の公開情報から定量的に類似資格の合格率を比較していきます。
E資格と類似する資格の合格者数
資格名 | 合格率 |
---|---|
統計検定3級 | 76% |
E資格 | 75% |
DS検定 | 66% |
G検定 | 62% |
統計検定2級 | 35% |
類似資格である統計検定2級と比較すると、一見難易度はそこまで高くないようにも見えます。
しかし、これは数値の「あや」で、実際の難易度が低いということではありません。前述の通りE資格を受験するにはJDLAが認定した講座を受講する必要があり、意欲が高く勉強をしっかりとしている母集団が受験者になっていると想定できるためです。
また、Study-AIが受験者を対象に実施したアンケート試験をもとに定性的な難易度を見ていきましょう。本アンケートでは「」という問いに対して、試験の難易度は国家資格である「応用情報技術者試験と同程度」という回答が最も多く、下記のブログでは同様に「応用情報技術者より少し難易度が高い」という感想もあります。
応用情報技術者試験は直近の合格率は20〜30%程度で推移していることから、母集団が絞られていない状態での実際の難易度としては同等の合格率20〜30%程度と仮定することができます。
理由③:転職に有利にならない
次は、大手求人サイトの「Indeed」と「求人ボックス」で、資格名の記載がある求人票が何件あるかを検証していきます。
資格名 | Indeed | 求人ボックス |
---|---|---|
統計検定 | 1,890件 | 851件 |
G検定 | 891件 | 368件 |
E資格 | 631件 | 216件 |
データサイエンティスト検定 | 82件 | 43 件 |
*各求人サイトにて完全一致で検索
結果、統計検定が求人票への記載数が最も多く、E資格は3番目という結果になっています。G検定と一緒に記載がある求人も多く、一定の認知度はあるといえるでしょう。
下記はサンプルですが、募集要項の歓迎要件にE資格の記載があることがわかります。中にはいわゆる有名・大手企業の求人も多数あり、採用担当・現場社員への説得力は一定あるといえそうです。
大塚商会のAIコンサルタントの求人
日立制作所のデータサイエンティストの求人
求人票には「G検定」などの類似資格も記載があるため、不安な方は並行で取得しておくとより書類・面接時の説得力も上がることが期待できます。
ここまでの情報をまとめると、E資格には下記のような特徴があることがわかります。
- 受験者数は1回あたり1000名を超えており、知名度としては申し分のない資格
- 合格率は高いが、そもそも受験者の母集団に偏りがある。応用情報技術者試験と同等の難易度
- 記載の数は多くないが、データサイエンティスト、AIコンサルタントなどの職種に歓迎要件に記載あり。
E資格取得にメリットはあるのか
公式資料から定量的な側面から見てきましたが、ここからは定性的に筆者が考えるE資格のメリットをご紹介します。Google検索にてE資格合格者の体験談・感想の記事を調査し、資格取得の有用性の検証をしていきます。
メリット①:機械学習・ディープラーニングを体系的に学べる
E資格取得のメリットは「体系的・網羅的に学べる」ことです。現実問題として、初心者が機械学習・AIの理論から実装までを体系的に学ぶことができる場所は多くはありません。右も左もわからないまま学習を進めている方も多いでしょう。
そんな前提で「これさえ勉強すれば大丈夫」という範囲を体系的かつ網羅的に学ぶことができるのは貴重な機会です。
合格者の中には、文系かつ未経験で合格した方もおり、それまで全くプログラミングや数学を学んだことがない初学者にでも合格できるような順序だった学びを享受できる点が大きなメリットと言えるでしょう。
メリット②:実務・研究に応用しやすいスキルを習得できる
そもそもデータサイエンティストになるにはどのようなスキル・知識のジャンルが求められ、どれくらいのレベルで習得しておくべきなのでしょうか? そこでデータサイエンス協会の公式資料を参考に考えていきます。
上記の図は、同協会が定義したデータサイエンティストに必要な3つのスキルセットです。データサイエンティストに必要なスキルを、①データサイエンス力、②データエンジニアリング力、③ビジネス力の3つに大別しています。
①データサイエンス力 | 情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う力 |
②データエンジニアリング力 | データサイエンスを意味のある形に使えるように実装・運用できるようにする力 |
③ビジネス力 | 課題背景を理解した上でビジネス課題を整理し解決する力 |
E資格では主に「データサイエンス」「データエンジニアリング」の2つの領域でにフォーカスした実装のスキルを保有することできます。
具体的には実装時のモデルの汎化性能を向上させるための知識や、論文などに記載されている数式・モデルを読み解いて実装するスキルなど、データサイエンティストになるには必須となるような知識を学習することができる点も魅力的です。
ただし多くの方がお話する通り、E資格で学んだ範囲のみでは一人前のAIエンジニアとは言えず、「スタートラインに立った」というレベルになります。さらなるキャリアの発展を望む場合は、Kaggleや実務経験を通じて深めていく必要があるでしょう。
メリット③:助成金で学習できる
合格者体験談の中でも振れられている通り、E資格は受験のための講座受講が必須かつ、受講料が高いというハードルの高さもあります。
そんな中、受講へのハードルを下げる朗報が「助成金を活用しての学習」です。JDLAのE資格認定プログラムは、厚生労働省の政策である「教育訓練給付制度」の「専門実践教育訓練」に指定されており、条件を満たすことができれば受講料の最大70%が国から給付されます。
実は多くの方に知られていないシステムなので言及しました。助成金の給付基準の詳細は下記記事を参考にしてみてください。
E資格の取得メリットをまとめると
- 学習機会が限られている初学者が体系的・網羅的なプログラムで学べる
- AIエンジニアに必要なデータサイエンス・エンジニアリングのスキル(実装経験)を習得できる
- 助成金を活用すれば講座受講料の最大70%が給付される
E資格の勉強方法
合格者体験談(ブログ記事)をもとに、どれくらいの勉強をすれば合格できるのかを見ていきましょう。今回、参考にしたのは以下の5つの記事になります。
記事タイトル | 受験時の前提知識・レベル | 勉強時間 |
---|---|---|
【合格体験記】E資格合格までの84日間で勉強したこと | 不明 | ・期間:3か月 ・総勉強時間:約400時間 ・1日あたり:平日4時間、休日8時間の学習 |
E資格を取得した感想 | ・プログラミング歴1年(実務のみ)・数学は高校卒業レベル(またはそれ以下 | ・期間:6か月 ・120時間 |
【E資格】2022#1 受験してみた | ・プログラミング歴8年・G検定取得済 | ・期間:8か月 ・400時間 |
【体験・感想】初心者がE資格に合格するための難易度や勉強方法、対策などを解説 | 理系大学卒、プログラミング経験なし | ・期間:5ヶ月 ・一日平均:3時間 |
E資格の勉強時間
N=4の合格者のプロセスをみていくと勉強期間は、3~8か月と一年以内には合格しているパターンが多く、総勉強時間は100~400時間となります。
また、Study-AIの調査では合格までの勉強時間は「100~300時間」という回答が89%を占めており、ざっくりの計算ですが約200~300時間・1日3~4時間の学習で合格できるでしょう。
勉強に取り掛かる前に…「数学」と「Python」の知識は必須
事前知識①:数学
E資格ではPythonを使ってのディープラーニングの実装スキルを主に問う資格ですが、何をするにせよ、高校数学(ベクトル、行列、確率)や、大学数学(偏微分、全微分、線形代数)などの理解が必須になります。
深層強化学習などでは暗記した状態とは別の形で出題されることも多く、数式の深い理解が必要になります。「例題を解いても別の問題では解けない……」となるくらいなら、結局のところは基礎固めが近道になるケースもよく聞きます。
下記の書籍はディープラーニングに必要な数学を高校1年生レベルの数学からのやり直しができる良書となっているのでおすすめです。
また、編集部では機械学習・データサイエンスに必要な数学を学べるおすすめ書籍をまとめた記事も執筆しておりますので、ぜひそちらもご確認ください。
事前知識②:Python
Pythonのスキルが足りない場合、認定講座のカリキュラムでキャッチアップできなくなったり、試験の本質的な学習への時間が割けないリスクがあるため防ぐためにも事前に学習しておきましょう。
E資格ではPythonの基本的な文法に加え、データ分析に使われるNumpy・Pandasなどのライブラリの使い方の理解も必要になってきます。下記の本はサンプルコード付きで学べるので、しっかりとマスターしておきましょう。
出題範囲の7割はJDLA認定プログラムの講座でカバー可能
JDLA認定プログラムは受講者の実装スキルを担保するために講座の受講を必須としており、3〜6か月程度の受講期間がかかります。
基本的に大体の内容は認定プログラムでカバーできますが、試験範囲自体広い上に毎年アップデートもされているため、他は独学でのキャッチアップが必要です。
後の3割は参考書での補講が必須
参考にした合格者体験談からは問題の2~3割は講座では扱っていない範囲からの出題があるという記載もあり、他の方の体験談ブログでも同様のことが書かれています。参考書での補修はマストといえるでしょう。
E資格のおすすめ対策本・参考書
編集部ではE資格のおすすめ参考書についてもまとめた記事もご用意していますので興味ある方は下記をご覧ください。
ゼロから作るDeep Learning
また、多くの方が参考にされているのが「ゼロから作るディープラーニング」です。この本は「①基礎と理論」「②自然言語」と2冊に分かれておりますが、①・②ともにコードがほぼそのまま試験問題に出ることもあります。
本書は普段はブラックボックスになっているディープラーニングの処理を理解することができる良書です。コードを参考に手を動かしながら学ぶことでディープラーニングの理論や本質的な理解に近づくことが期待できます。
また、この本はベストセラーとなっているため、学習で少しわからない部分があったとしてもGoogle検索をすれば解説記事・動画が多様に出てくることも本書の魅力です。本を理解しながら進めれば実装力を上げられることは、数多くの読者が証明していますので是非購入しましょう。
徹底攻略ディープラーニングE資格エンジニア問題集 第2版 (徹底攻略シリーズ)
E資格は形式的な問題も多いため、問題集形式での参考書での対策がおすすめです。まずは試験の難易度や、試験を通じて学べることの確認をしたい方は参考書を購入してイメージを深めるのもよいでしょう。