企業をはじめ様々な分野でデータの活用がうたわれるなか、統計やデータサイエンスは21世紀における必須教養といっても過言ではない学問となっています。
しかし、将来のために統計知識を得たくても何から始めればいいかわからないという方も多いのではないでしょうか。そんな方に統計学習の一歩目としておすすめしたいのが統計検定 3級です。
本記事は、統計学習の足がかり的な資格である統計検定3級の難易度や勉強方法について、実務でデータサイエンスを活用されている監修者のもと説明していきます。
記事の最後にはおすすめの本・学習サイト・講座までご紹介させていただいてますので、ぜひ最後までご覧ください。
監修者
經田 原弘
東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻修了。大学時代は3次元の医療データの平滑化処理を研究テーマとし、大学院時代はJAXAと協業し、月探査機かぐやの衛星データから、月面上の水の存否について調査していた。新卒では株式会社リクルートにてレコメンドシステムの開発等に従事し、現在は製造業系スタートアップにてデータサイエンティストとして勤務。応用情報技術者試験・E資格合格者。
統計検定3級の取得メリット
まず、統計検定 3級を取得するメリットをみていきましょう。
メリット①:統計学習の「足がかり」として最適な学習レベル
一般社団法人データサイエンティスト協会が定義するデータサイエンティストに求められるスキルセットとしては、①ビジネス力 ②データサイエンス力 ③データエンジニアリング力の3つと定義されています。
統計検定はデータサイエンスのなかでも特に数理統計の知識・スキルアップが見込める資格です。機械学習のモデル構築の前提となる統計知識を幅広く学習することができるため、汎用性の高いスキルの土台が身につくことが統計検定のメリットと言えるでしょう。
統計検定3級の出題範囲には、「標準偏差」「分散」など、後続の統計学習に必要となる「基礎の基礎」が含まれています。研究者を目指すにしても、データサイエンティストやエンジニアを目指すにしても、3級レベルの統計的な基礎知識は必要不可欠です。
どんな将来を目指す場合でも汎用性高く、土台となるような統計知識を身につけられることが大きなメリットです。
メリット②:中学~高校数学レベルの難易度で合格しやすい
統計検定3級の合格率は「75.6%(2021年)」で、約4人に3人が受かる比較的に難易度の低い試験といえます。
メリットの一つ目とも関連しますが、出題の難易度としても中学~高校数学のレベルであるため、比較的易しく、学習を始めるにあたってのハードルも高くはないことも特徴です。
詳細は記事の後半で解説していますので、そちらもご参考ください。
統計検定3級取得は転職に有利になる?
履歴書に書くことでどれほど転職で有利に働くことになるのかも気になるところでしょう。そこで転職時にどれくらいアピールにつながるのかを検証していきます。検証の方法としては、リクルートホールディングスが運営する求人サイト「Indeed」にてどんな求人がヒットするかを見ていきます。
検証方法
Ukatta編集部はIndeed内で「統計検定 3級」をフリーワード検索したらどんな求人がHITするか
結果
Indeedの求人内に「統計検定 3級」に該当する求人は多くない
統計検定 3級でヒットした求人(マーケットリサーチ)
Indeed内には数件、UX・マーケットリサーチャーや、品質管理など求人にて「統計検定 3級」を記載する求人が見られ、一定の統計基礎知識の証明にはつながるといえるでしょう。
ただし、データサイエンティストやデータ分析者などデータを専門に扱う職種では、「基礎的な統計知識(統計検定2級程度)」という記載が見られます。実際、3級の出題範囲的にも実務で統計を扱うレベルにまでは到達しませんので、データ分析自体を生業にするというよりは、実務のなかで統計知識も必要になる職種では転職にも有効といえるでしょう。
あくまで3級の取得は学びの一歩目として位置づけ、転職に有利なレベルまで統計知識を身に着けたい場合は、継続して学習して2級以上を取得していくことがおすすめです。
統計検定3級の試験概要
そもそも「統計検定」という試験自体の全体像が見えない方もいらっしゃるかと思いますので、統計検定の概要を説明した上で3級の位置づけについて説明していきます。
統計検定 3級の試験概要
統計検定は、統計に関する知識や活用力を評価する全国統一試験です。
統計検定の各級の分類を行うと、①数理・統計知識が身につくもの ②統計調査の知識が身につくもの ③データサイエンティストとしての分析・実装能力が問われるもの の3つに大別されます。
身に付く知識 | 統計検定の分類 |
---|---|
数理・統計の知識が身につく | 統計検定4級~1級 |
統計調査の知識が身につく | 統計調査士、専門統計調査士 |
データサイエンスの知識が身につく | データサイエンス基礎・発展・エキスパート |
中でも数字がつく4級〜1級の5種別はオーセンティックな数理・統計知識を問う試験です。問題形式は選択式ですが、統計用語の解説に加えて、数式を覚えて実際に計算して解いていくような問題が多く、まさに「理論」としての統計学の理解を問う試験形式になっています。
統計検定5種別の試験レベル
各級で学べることをまとめた表が以下の表です。
中でも、統計検定3級の出題範囲には、「標準偏差」「分散」など、後続の統計学習に必要となる「基礎の基礎」が含まれており、初学者が入口として学ぶ難易度としては最適なレベルになっています。
資格名 | 学べること |
---|---|
統計検定 4級 | データや表・グラフ、確率に関する基本的な知識と具体的な文脈の中での活用力 |
統計検定 3級 | データの分析において重要な概念を身に付け、身近な問題に活かす力 |
統計検定 2級 | 大学基礎科目レベル(1~2年次)の統計学の知識の習得度と活用のための理解度を問う |
統計検定 準1級 | 2級で求められる統計学基礎に加え、各種統計解析法の使い方および解析結果の正しい解釈 |
統計検定 1級 | 大学専門課程(3・4年次)で習得すべきで求められる統計数理・統計応用の知識 |
統計検定3級の難易度
出題範囲
表にすると膨大な量の試験範囲があるように見えますが、出題内容は統計用語の理解やデータの読み方などが中心となっているため、難易度としては中学・高校数学の知識があれば解ける問題がほとんどです。
分野 | 項目(学習しておくべき用語) |
---|---|
データの種類 | 量的変数、質的変数、名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比例尺度 |
標本調査 | 母集団、標本、全数調査、無作為抽出、標本の大きさ、乱数表、国勢調査 |
実験 | 実験研究、観察研究、処理群と対照群 |
統計グラフ | 棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフ、帯グラフ、積み上げ棒グラフ、レーダーチャート、バブルチャート、ローソク足、モザイク図、散布図(相関図)、複合グラフ2 |
データの集計 | 度数分布表、度数、相対度数、累積度数、累積相対度数、階級、階級値、度数分布表からの統計量の求め方、クロス集計表(2 元の度数分布表) |
時系列データ | 時系列グラフ、指数(指標)、移動平均 |
データの代表値 | 平均値、中央値、最頻値 |
データの散らばり | 最小値、最大値、範囲、四分位数、四分位範囲、分散、標準偏差、偏差値、変動係数、共分散、相関係数、ヒストグラム(柱状グラフ)、累積相対度数グラフ、幹葉図、箱ひげ図、はずれ値 |
相関と回帰 | 相関、擬相関、因果関係、最小二乗法、回帰係数、予測 |
確率 | 独立な試行、条件付き確率 |
確率分布 | 二項分布、正規分布、二項分布の正規近似 |
統計的な推測 | 標本平均・比率の標本分布、母平均・母比率の区間推定、母平均・母比率の仮説検定 |
なお、2020年4月以降の受験には、それまでは2級レベルだった「相関と回帰」「確率分布」「統計的な推測」も新たに出題範囲に加わっています。以前は3級はデータの見方に特化した試験内容という印象でしたが、より「統計基礎」が学習できる試験範囲へと変更されています。
試験の出題範囲は統計検定公式ホームページに公開されています。詳細が気になる方はぜひ参考ください。
合格率・合格点
試験種別 | 必要な勉強時間 | 合格率 |
---|---|---|
統計検定 4級 | 10~30時間 | 72.8% |
統計検定 3級 | 10~30時間 | 75.6% |
統計検定 2級 | 30~120時間 | 34.1% |
まずは公開されている情報をベースに周辺の級である4級、2級との合格率を見ていくと、統計検定は3級・4級の合格率が7割を超えているのに対し、2級以上では約2~3割となっています。
この合格率の違いは解答するのに求められる数学知識の違いが表れているといえるでしょう。2級以上は理系学部卒レベルの難易度が求められますが、3級は数Ⅰレベルと文系でも解けるような内容となっています。
合格に必要な勉強時間
統計検定3級の目安の学習時間は、大体10~30時間です。中学・高校までの数学知識があれば過去問を1~2周なぞるのみでも合格が可能なレベルと言えるでしょう。
最短2週間で合格できる?統計検定3級の勉強方法
まずは試験範囲の全体像を理解することから始めましょう。試験全体像理解の方法は大きく分けて2つあり、①出題範囲表 ②チートシートの活用 です。
対策のポイント①:出題範囲表で試験範囲の全体像を把握する
統計検定3級出題範囲表
統計検定では「過去問に出てくる単語を出題範囲表から逆引きする」というアプローチをとると、自身の苦手分野が明らかになり学習効率が高くなります。
たとえば過去問の設問内に「単回帰分析」という単語が記載されていたら、出題範囲表のなかでどこに位置しているかを調べます。
「相関と回帰」というテーマであることがわかり、さらに同じ分野の他の語句には「最小二乗法」「回帰係数」「予測」などもその分野において重要な単語であることがわかるでしょう。
対策のポイント②:チートシートで数式を確認
公式ではないですが、統計検定の出題範囲と概要をまとめた「チートシート」と呼ばれる早見表が話題となっています。
統計検定は数多くの数式の暗記と活用が必要になります。チートシートを活用すれば、一回一回参考書の該当部分を調べて参照するよりも、手早く公式をチェックできるようになります。
時間のある方や理解を確認しながら行いたい方はご自分で作成されるのもよいかもしれません。以下は統計検定3級のチートシートになりますので是非ご参考ください。
対策のポイント③:過去問をフル活用
前述に紹介した通り、統計検定は語句の意味を問われるような設問は少なく、実際に数式を活用して応用的に問題を解いていくことが求められます。加えて問題数も非常に多く、数式を素早く思い出し計算していく力も必要になります。
過去問を活用して、「この問題にはこの数式を充てれば解答が導ける」というパターン認識ができるようになるレベルまで、問題集を反復していくことが重要です。
過去問は標準テキストを活用しましょう。1冊で6回分の試験に相当するため、これ1冊を購入すれば試験範囲はほぼカバーできます。
統計検定3級の頻出問題
また、過去問の傾向から見えている頻出問題がどこか?を押さえ、そこを重点的に学習することも重要です。
分類 | 分野と出題割合 | 出題の割合(目安) |
---|---|---|
最頻出 | ・統計グラフ ・時系列データ ・データの代表値 ・データの散らばり ・相関と回帰 ・確率 | 約40% |
頻出 | ・データの種類 ・標本調査実験 ・データの集計 | 約20% |
統計検定3級は「相関と回帰」「確率」などから約4割出題されており、明確に出題傾向があります。当然、出題される問題数が多いということは配点がそこに寄ることになるため、3級においては特に仮「相関と回帰」「確率」の問題を多く解いていくことが合格への重要なポイントです。
統計検定3級のおすすめ参考書・過去問
統計検定3級のオススメ参考書
ここからは編集部がおすすめする統計検定3級対策の参考書を紹介していきます。おすすめする本の数は3冊と少ないですが、逆にいえばこの3冊のみで試験対策は万全です。
【全体像理解に】改訂版 日本統計学会公式認定 統計検定3級対応 データの分析
「統計検定3級対応 データの分析 」は試験範囲の確認や教科書的に理論を学ぶのに活用しましょう。
試験運営団体から認定を受けた「日本統計学会」が発行する「公式」の参考書になっているため、試験範囲と完全準拠した内容になっています。
試験範囲がアップデートされたとしても常に本書の最新版を買っておけば、対策モレなどが発生しないので、ぜひ購入しておきましょう。
【過去問】日本統計学会公式認定 統計検定3級・4級 公式問題集[CBT対応版]
「公式」と名のつく通り実際に出題されている問題であるため、統計検定2級を受けるときには必須の問題集です。
統計検定は用語を問う問題に加え、実際に数式を覚えて計算する問題も多いため、問題演習でのアウトプットが合格に直結します。
過去問は標準テキストを活用しましょう。1冊で6回分の試験に相当するため、これ1冊を購入すれば試験範囲はほぼカバーできます。
【2級以上を目指す向け】完全独習 統計学入門
「完全独習 統計学入門」は3級と2級の試験範囲が良い塩梅で重複しており、まさに2級以上を見据えて学習したい方にピッタリの参考書になります。
本書は数式よりも国語的な理解を促すことが特徴で、中学校で習う数学(ルートと1次不等式)から解説してもらえるなど計算式の解説が丁寧であることから、文系読者でも統計検定2〜3級の知識を独習することができます。
2部構成になっており、1部では「ヒストグラム」「標準偏差」など初歩からスタートしながらも、2級の出題範囲である「検定」「区間推定」という統計学の最重要項目に最短時間で到達することを目指しています。
統計検定のおすすめ講座
統計検定3級のための有料講座は多くなく、Udemyの講座活用をおすすめしています。
はじめての統計(推定・検定編) ~記述統計から推測統計へ!しっかり9時間、97レクチャーでデータ時代の入場券を手に入れる
講座名 | はじめての統計(推定・検定編) ~記述統計から推測統計へ!しっかり9時間、97レクチャーでデータ時代の入場券を手に入れる |
内容 | データサイエンス時代にまず押さえるべきデータの扱い方・見方を扱った統計講座。データをどう要約し、分かりやすく伝えるのか(記述統計)から、そのデータから母集団について何が言えるのか(推測統計)まで、丁寧に統計的発想を身に付けます |
費用 | 24,000円 |
時間 | 8時間44分 |
著者名 | 丹羽 亮介 |
評価・口コミ(Udemy) | 4.6 / 5(23件の評価) |
受講者数(Udemy) | 268任 |
先述に通り2020年4月以降、統計検定3級の出題範囲には推定や仮説検定も追加されています。
統計検定3級対策のおすすめサイト
ここからはUkatta編集部がおすすめする「統計検定の対策ができる」あるいは「統計学が学べるサイト」を紹介します。
サイトを活用した学習のメリットは「無料で使えること」でしょう。加えて、専門家監修の統計専門の学習サイトも少なくなく、資格学習に限らず統計の基礎知識全般の補填に役立ちます。
Hello! Statisticians! - あつまれ統計の森
サイト名 | Hello! Statisticians! - あつまれ統計の森 |
サイトURL | https://www.hello-statisticians.com/ |
運営会社 | ー |
サイト紹介文 | 「あつまれ統計の森」では昨今必須スキルともされることの多い「統計学」に関して様々な観点から取り扱います。統計学に関する数学的な議論は難しいとされがちですが、なるべく「本質的な理解」ができるようにそれぞれのトピックに関する内容の作成を行います。 |
「Hello! Statisticians! - あつまれ統計の森」は学習のロードマップを示してくれるだけではなく、機械学習につかう数学や本、演習問題など幅広く参考になるコンテンツが多く記載されています。
「あつまれ統計の森」の特筆すべき点は、なんといっても統計検定3級の過去問の解説記事が載っていることです。2018年~2021年分までの3年分(2020年は除く)を6月・11月受験の2回ずつ、計6回分解説されていることからコンテンツの量も申し分なく、もしかすると過去問を買わなくても対策できる方もいるかもしれません。
著者はUdemyで「Pythonで実践する統計モデリング入門」などの講座も開講しておりますので、気になる方はぜひこちらもチェックしましょう。