近年、DXやAI活用の文脈から、ますます注目が集まる統計・データサイエンスの資格分野。中でもデータサイエンスの基礎となる数理・統計知識や簡単なデータ分析を問う試験は、初学者の学習の入口として最適な目標ともいえます。
しかしながら、世の中には数多くの資格試験が溢れており、「何を決め手にどの資格を学習すればよいか決めかねている」という方も多いでしょう。
本記事ではそんな方に向けて、現役データサイエンティストかつ資格検定講師が独自にリサーチをした統計・データ分析系の資格を一覧で紹介していきます。
監修者
經田 原弘
東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻修了。大学時代は3次元の医療データの平滑化処理を研究テーマとし、大学院時代はJAXAと協業し、月探査機かぐやの衛星データから、月面上の水の存否について調査していた。新卒では株式会社リクルートにてレコメンドシステムの開発等に従事し、現在は製造業系スタートアップにてデータサイエンティストとして勤務。応用情報技術者試験・E資格合格者。
統計・データ分析資格の取得メリット
まずは数理・統計系の資格を取得することの意義やメリットについて見ていきましょう。編集部が独自に定義するメリットは下記の3点に集約されます。
- どんな専門分野にも応用できる、汎用性の高い知識が身につく
- データサイエンティストを目指す「中間目標」になる
- 数理・統計知識のある人材の供給は間に合っておらず、転職・就職に有利になる
メリット①:汎用性の高い「統計」の知識が身につく
メリットの一つ目は資格を通じて統計・データ分析を学ぶことで多様な領域・分野で転用ができる汎用性の高い知識が身につくことです。
あらゆる意思決定がデータやファクトによって行われる昨今では、効果計測や実証分析の手法は、限られた人ではなく、「すべての人が学ぶべきもの」という認識に変わりつつあります。
もう少し具体的に見ていくと、大学・大学院、研究機関などのアカデミックな領域では、サンプルやデータの収集が物量的に難しいなか、限られたデータの中から推測する推測統計学を使って実証分析をしていくことが多いです。
また、実務でもExcelの関数やPythonなどのライブラリなどのツールを使って簡易的に相関係数を算出したり、回帰分析ができるようになれば、ビジネス現場でも説得力の高い分析・提案ができるようになります。
このように統計学は実務でも研究分野でも汎用性が高く、良い意味で“つぶしのきく”学問であることから、学んで損をすることはほとんどない学問分野だといえるでしょう。
メリット②:データサイエンス学習の中間目標となる
2つ目のメリットは学んだ数理・統計知識を発展させていくことで、機械学習モデル構築やディープラーニングなどのデータサイエンスに必要なスキルへと昇華できるようになることです。
そもそもデータサイエンティストになるにはどのようなスキル・知識のジャンルが求められ、どれくらいのレベルで習得しておくべきなのでしょうか? そこでデータサイエンス協会の公式資料を参考に考えていきます。
上記の図は、同協会が定義したデータサイエンティストに必要な3つのスキルセットです。データサイエンティストに必要なスキルを、①データサイエンス力、②データエンジニアリング力、③ビジネス力の3つに大別しています。
①データサイエンス力 | 情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う力 |
②データエンジニアリング力 | データサイエンスを意味のある形に使えるように実装・運用できるようにする力 |
③ビジネス力 | 課題背景を理解した上でビジネス課題を整理し解決する力 |
統計を学ぶと、データサイエンス力・データエンジニア力に必要な「数理・統計知識」が身につきます。
数理統計はデータサイエンティストにとって”足腰”となる学習分野です。モデルやアルゴリズムを構築する際の仕組みの理解に役立ちます。より高いレベルを目指す方は「試験に合格する(だけ)」よりも「統計と数学の理解」を重視して勉強しましょう。
上記の図は、統計数理研究所が公開している「ビッグデータ時代のデータサイエンティスト育成の取り組み」の資料内の図です。この図では「統計検定の各級の取得がデータサイエンティスト実務のどのレベルにあたるか」を示しています。
統計検定2級は「見習いレベル」と表記されている通り、まさにデータ系職種となる第一歩といえるようなレベルであることがわかるでしょう。
メリット③:就職・転職に有利になる
メリットの3つ目は統計系の資格を持つことで就職・転職に応用が可能になることです。
統計学は汎用性の高い学問ではあるものの、数理・統計知識やデータサイエンスを実務に応用できる人は現時点では少なく、希少価値があります。
ITRの発表したデータによるとAIの主要8市場は2019~2024年までの5年間で年平均20.6%で成長すると見立てており、今後も伸びていく市場です。
一方、AI・データサイエンス領域の市場の伸びに対して、人材供給が間に合っていない現状があります。求人BOXによると、データサイエンティストの平均年収は約696万円と、日本の平均年収と比較すると高い傾向にあります。
上記を検証していくために、大手求人サイトであるIndeedでN=1の求人例をみていきます。
上記はPayPay株式会社のデータサイエンティストの求人票です。このように実際の大手企業求人でも「統計検定準1級」等の記載があったりと、一定の権威性を認められている資格であることがわかります。
さらに求人票に記載がある「応用情報技術者試験」「データベーススペシャリスト」などと併用して取得することで、さらに説得力の高い履歴書になっていくことが期待できるでしょう。
編集部おすすめの統計学・データ分析系資格一覧
ここからは編集部が独自に調査をし、取得をおすすめしたい資格を初級~中級者までレベル別に一覧で紹介していきます。
【おすすめ・初級者向け】統計検定 3級
試験名 | 統計検定 3級 |
試験概要 | 大学基礎統計学の知識として求められる統計活用力を評価する試験。 統計リテラシーとしての基本的な用語や概念の定義を問う問題や、相関と回帰など統計的推論についてを出題する。 |
合格率 | 75.6% *2019年実績 |
勉強時間 | 30時間程度 |
おすすめポイント | ・統計・データ分析学習の「足がかり」として最適なレベル ・中学~高校数学レベルの前提知識でも解くことができるため、受験ハードルが低い |
まず編集部がおすすめするのは「統計検定」です。
「統計検定」とは、統計に関する知識や活用力を評価する全国統一試験です。統計検定の各級の分類を行うと、①数理・統計知識が身につくもの ②統計調査の知識が身につくもの ③データサイエンティストとしての分析・実装能力が問われるもの の3つに大別されます。
身に付く知識 | 統計検定の分類 |
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数理・統計の知識が身につく | 統計検定4級~1級 |
統計調査の知識が身につく | 統計調査士、専門統計調査士 |
データサイエンスの知識が身につく | データサイエンス基礎・発展・エキスパート |
中でも数字がつく4級〜1級の5種別はオーセンティックな数理・統計知識を問う試験です。問題形式は選択式ですが、統計用語の解説に加えて、数式を覚えて実際に計算して解いていくような問題が多く、まさに「理論」としての統計学の理解を問う試験形式になっています。
統計検定5種別の試験レベル
各級で学べることをまとめた表が以下の表です。
資格名 | 学べること |
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統計検定 4級 | データや表・グラフ、確率に関する基本的な知識と具体的な文脈の中での活用力 |
統計検定 3級 | データの分析において重要な概念を身に付け、身近な問題に活かす力 |
統計検定 2級 | 大学基礎科目レベル(1~2年次)の統計学の知識の習得度と活用のための理解度を問う |
統計検定 準1級 | 2級で求められる統計学基礎に加え、各種統計解析法の使い方および解析結果の正しい解釈 |
統計検定 1級 | 大学専門課程(3・4年次)で習得すべきで求められる統計数理・統計応用の知識 |
中でも、統計検定3級の出題範囲には、「標準偏差」「分散」など、後続の統計学習に必要となる「基礎の基礎」が含まれており、初学者が入口として学ぶ難易度としては最適なレベルになっています。
また、定量的に見てみても統計検定3級の合格率は「75.6%(2021年)」と、勉強時間も30時間程度で合格できるため、比較的難易度の低い試験といえます。出題の難易度としても中学〜高校数学のレベルであるため、比較的易しく、学習を始めるにあたってのハードルが高くはないことも特徴です。
編集部では統計検定 3級の合格者体験談をベースに難易度・勉強方法を網羅的にまとめた記事も用意しています。気になる方は下記リンクよりご覧ください。
【おすすめ・中級者向け】統計検定 2級
試験概要 | 大学基礎科目レベルの統計学の知識の習得度と活用のための理解度を問うために実施される検定。 推定・仮説検定など推測統計学の基礎を中心に出題される。 |
合格率 | 43.4% *2019年実績 |
勉強時間 | 50~100時間 |
おすすめポイント | ・研究/実務両方に応用できる「推測統計学」の知識が身につく ・データサイエンティスト実務の「見習い」レベルに相当する統計知識が身につく |
統計検定2級は「仮説に対する検証を行う」「実証分析を行う」「データによる意思決定をする」ための中核となる理論、手法を学べるため受験対象者は幅広く、データ系職種を目指す方だけでなく、研究に活かしたい大学生・大学院生や研究開発職など多様な方に人気のある資格です。
また、統計数理研究所が公開している「ビッグデータ時代のデータサイエンティスト育成の取り組み」の資料では、「統計検定の各級の取得がデータサイエンティスト実務のどのレベルにあたるか」を示しており、統計検定2級は「見習いレベル」と表記されています。
まさにデータ系職種になるための第一歩といえるようなレベルであるといえるでしょう。
ただし、前提となる数学知識によって勉強時間が大きく変わるのもこの試験の特徴。合格率は43.4%と他の資格と比較して低く、少なくて50時間、多く見積もっても100時間程度の勉強時間での合格が可能です。
編集部では統計検定 2級の合格者体験談をベースに難易度・勉強方法を網羅的にまとめた記事や、おすすめ参考書を紹介する記事も用意しています。気になる方は下記リンクよりご覧ください。
【初級者向け】ビジネス統計スペシャリスト エクセル分析ベーシック
試験概要 | 平均値や標準偏差など、ビジネスデータの基本的な情報を把握したり、Excelのグラフ機能や関数を使用してデータの傾向や相関などを発見・分析する基礎的な分析スキルを評価する試験。 |
合格率(推定) | 60~70%程度 |
勉強時間 | 約20時間 |
おすすめポイント | ・MOS試験等で知られる「オデッセイ・コミュニケーションズ」が運営しており、安心感がある ・Excelという身近なツールで統計学を学べることから、実務に応用しやすい |
ビジネス統計スペシャリストはビジネス現場で必要となる統計知識とExcelでのデータ分析技能を証明する資格試験です。
初級者向けの「エクセル分析ベーシック」と中級者向けの「エクセル分析スペシャリスト」の2段階で構成されています。
エクセル分析ベーシックは統計検定3級程度の統計学の知識をExcelで応用できる試験です。平均値や標準偏差など統計学の基礎中の基礎となる用語や、相関分析など統計検定3級の出題範囲と多く被っており、難易度は統計検定3級とほぼ同じ程度のレベルです。
統計検定3級との違いは、統計検定は統計学の「理論」を紙上で回答していくのに対して、ビジネス統計スペシャリストは統計学をExcelという身近なツールで「実践」していく実務寄りの資格であることです。
従って問題形式も異なってきます。統計検定は数式を覚え各問題を計算して回答する必要がありますが、ビジネス統計スペシャリストは数式は必要なく、関数の扱い方を知っていることが重要になります。
編集部ではエクセル分析ベーシックの合格者体験談をベースに難易度・勉強方法を網羅的にまとめた記事も用意しています。気になる方は下記リンクよりご覧ください。
【初中級者向け】統計検定 データサイエンス基礎
試験概要 | 分析目的に応じて、解析手法を選択し、表計算ソフトExcelによるデータの前処理から解析の実践、出力から必要な情報を適切に読み取り、当初の問題の解決のための解釈を行う一連の能力を「データサイエンス基礎」として評価・認証する試験 |
合格率(推定) | 40~50%程度 |
勉強時間 | 15~60時間 |
出題範囲には統計用語、データのビジュアライズ(グラフ化、クロス集計表etc)に加え、t検定など、統計検定3級程度の知識を問題が多いです。
出題範囲内で扱うExcelの関数が多いため、統計検定2級~3級程度の難易度に加えてもう少しデータサイエンス実務寄りの知識が欲しい方におすすめなのが統計検定のDS基礎です。
DS基礎の勉強時間は、統計検定2級程度の知識を保持していれば15〜20時間程度・統計検定初挑戦であれば、40〜60時間くらいを見積るとよさそうです。
編集部ではDS基礎の合格者体験談をベースに難易度・勉強方法を網羅的にまとめた記事や、おすすめの参考書を紹介する記事も用意しています。気になる方は下記リンクよりご覧ください。
【初中級者向け】ビジネス統計スペシャリスト エクセル分析スペシャリスト
試験概要 | データ分析の”実践”に重点をおき、分析データの理解・まとめ方、仮説検定、相関分析、回帰分析などを出題範囲に含みます。Excelの分析ツールや関数を活用して、ビジネスデータ分析の実践力を評価する試験。 |
合格率(推定) | 40~50%程度 |
勉強時間 | 10~30時間程度 |
エクセル分析スペシャリストは、統計検定2級程度の統計学知識をExcelで問う資格試験です。
エクセル分析スペシャリストでは、t検定やF検定などを含む分析ツールの活用や重回帰分析などが中心に出題されます。推測統計学が幅広く出題される統計検定2級と異なり、仮説検定と回帰分析に主眼を絞っているため、統計検定2級よりは範囲が狭く、難易度は低いといえそうです。
編集部ではエクセル分析スペシャリストの合格者体験談をベースに難易度・勉強方法を網羅的にまとめた記事も用意しています。気になる方は下記リンクよりご覧ください。
【中級者向け】Python3エンジニア認定データ分析試験
試験概要 | PythonのNumpy、Pandasなどの標準ライブラリを活用してデータ分析ができる |
合格率 | 86% |
勉強時間 | 30時間 |
Python3エンジニア認定試験は全部で3段階で構成されており、初級者向けの「Python3エンジニア認定基礎試験」と中級者向けの「Python3エンジニア認定データ分析試験」、上級者向けの「Python3エンジニア認定実践試験」があります。
試験名 | 資格取得後にできること | 主な出題内容 |
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Python3エンジニア認定基礎試験 | ・Pythonの基本文法の理解ができる ・Pythonのデータ構造を理解して、基本的なコードを書けるようになる | ・データ構造 (リスト型・集合型・辞書型・del文)・制御構造ツール (if文・for文・break文・continue文など) |
Python3エンジニア認定データ分析試験 | ・ライブラリを活用してPythonで分析ができる | ・ライブラリによる分析実践(NumPy・Matplotlib・scikit-learnなど) ・数学の基礎知識(線形代数・確率・基礎解析など) |
Python3エンジニア認定実践試験 | ・ライブラリ(暗号化ライブラリなど)を活用して、Pythonでより高度なプログラム作成ができる・パフォーマンスの最適化を考えられるようになる | ・Pythonの言語使用(例外処理・with文・ジェネレーター・デコレーターなど) ・Pythonのクラス(class構文・dataclass・オブジェクト関連関数など) ・データ型とアルゴリズム(二分法アルゴリズムの利用・イテレーターの組み合わせなど) |
Python3エンジニア認定データ分析試験はPythonでデータ分析を行うために欠かせない「ライブラリ」を学ぶことができる資格試験です。
ライブラリとは汎用性の高い関数やソースコードが集まったプログラムを補うための部品です。ライブラリを活用すると、複雑なソースコードを自身のプログラムに取り込めるので、効率的に高度なプログラムを作成できるようになります。
本資格で学習する「ライブラリ」を活用すると、①数十行程度のソースコードで高度なデータ分析が可能になる ②Numpy等の数値計算ライブラリを活用することで高速な処理が可能になる というメリットがあり、今後データサイエンティストとしての活躍を目指している方にとって本資格は非常に有効といえます。
編集部では「Python3エンジニア認定データ分析試験」の詳細をまとめた記事も執筆しています。気になる方はぜひ下記の記事もご覧ください。